〜 それは逃げではない 〜
事業を「やめる」と決めることは、けっして後ろ向きなことではありません。
後継者がいない。
無理に継がせるつもりもない。
体も気力も限界に近づいている。
そんな中で、「この仕事は、自分の代で終わらせる」と決断する経営者は少なくありません。
実際、東京商工リサーチの調査によると、2023年に休廃業・解散を選択した企業の数は49,788件にのぼり、過去最多を記録しました。
さらにそのうちの53.7%が黒字のまま事業を終えています。つまり、「業績が悪化したから」ではなく、「意志をもって閉じた」会社が半数を超えているのです。
しかし、この「自分の代で終える」という選択は、簡単なようでいて、とても難しい道です。
“やめる”という選択に、なぜこんなにも葛藤があるのか?
長年、自分のすべてを注ぎ込んできた仕事を、ある日「終わり」にする。
それは、人生の一部に蓋をするような、重くて、寂しい決断かもしれません。
- 「今やめたら、迷惑をかける人が出るのではないか」
- 「仕事を辞めたら、自分には何が残るのか」
- 「家族や従業員に申し訳ない」
こうした思いが交錯し、なかなか踏み出せない方が多くいます。
それでも、日々の中でふと**「もう、限界かもしれない」**と感じる瞬間があるかもしれません。
それは決して“弱さ”なんかじゃありません。
責任を背負う立場だからこそ、自分の今を正直に見つめざるを得ない。それはむしろ強さではないでしょうか。心の中に芽生えた「引退」という言葉、それは確かに、“責任ある決断”の一つです。
終えるために、整える
廃業は、ただ店をたたむことではありません。
- 契約の整理
- 顧客・仕入先への告知
- 従業員の再就職支援
- 資産や設備の処分
- 在庫や借入の清算
- 税務や社会保険の処理
どれも、残された人や地域に混乱を残さないために、必要な準備です。
それらを丁寧に、時間をかけて進めることができるのは、経営者自身だけです。
そして、それを整えた後にようやく、自分の人生の「次の章」を始める準備が整います。
「いつか」ではなく、「今」だからこそできること
後回しにしていては、突然の病気や事故で、判断すらできなくなることもあります。
「事業の終わり方」まで、しっかり考えられる人は、ほんの一握りです。
だからこそ、“今”このテーマと向き合えることには、大きな価値があります。
自分の足で立ち、自分の意志で終わらせる。
その覚悟と責任は、人生の次のステージにも、きっと意味をもたらしてくれます。
次回へつなぐ
次回は、「整える実務」編として、
実際に何から始めればいいか、どんな段取りが必要かを、わかりやすくお伝えしていきます。

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